DINKs

『進撃の巨人』から反出生主義を考える

みなさんは反出生主義という言葉を聞いたことがありますか?
反出生主義とは「人間はこの世に生まれてこないほうがよい」とする、古くから存在する倫理的見解です。
アンチナタリズムとも言います。

近年、SNSを中心に反出生主義に関する議論が熱を帯びてきているので、名前だけは聞いたことがあるという方も多いかもしれません。
一見極端で過激的な思想のように感じますが、共感する人も多く、ここ数年で反出生主義関連のメディアでの特集も増えており、令和を生きる人々がこの思想に触れる機会が多くなったと感じます。

今回はそんな反出生主義に似た思想が登場する大人気漫画『進撃の巨人』についてお話したいと思います。

原作は完結していますので、読んだことがない方もぜひ読んでみてください!
アニメ版は2023年秋完結予定。Netflixなど動画配信サービスで見ることができますよ♪

◆『進撃の巨人』全巻セット

[新品/あす楽]進撃の巨人 (1-34巻 全巻) +オリジナル収納BOX付セット 全巻セット

『進撃の巨人』ざっくりあらすじ

進撃の巨人 反出生主義
進撃の巨人は『別冊少年マガジン』(講談社)で2009年から連載を開始した諫山創さん作のダークファンタジー漫画です。

実は筆者の中で1,2位を争うくらい大好きな漫画でして…
キャラクターの魅力やストーリーの奥深さ、そして緻密に張り巡らされた伏線の秀逸さ。
現実の社会問題との絶妙なリンクなどさまざまな視点で考えさせられる、類を見ない作品だと思います。
すべてを活字にできず悔しくてなりません!言語化能力が欲しい!
語り始めたらハンジさんのように明け方までかかってしまいそうです(笑)

そんな筆者イチオシの作品なのですが、ストーリーをご存じない方向けにざっくりあらすじを紹介します。

進撃の巨人 反出生主義

人類は巨人から身を守るため、マリア・ローゼ・シーナと呼ばれる3つの壁を築き、壁外へ出る自由と引き換えに、壁の中で生きることで平和な暮らしを享受していました。

ある日、主人公・エレンが暮らすシガンシナ区の壁を体長50mを越える「超大型巨人」が破壊し、破壊された壁の穴から入ってきた巨人たちによって街は壊滅状態に陥ります。

進撃の巨人 反出生主義

エレンは生き残ることができましたが、目の前で巨人に母親を食べられてしまいます。
母親が巨人に食べられる光景を目の当たりにしたエレンは「すべての巨人をこの世から駆逐する」と誓います。

超大型巨人による襲撃から数年が経ち、壁の外の世界を夢見るエレンは調査兵団に入団するため訓練に明け暮れます。
そんなある日、超大型巨人が再び壁内に現れ、今度はウォールマリアの壁を破壊。

この戦いの中でエレンは自らが巨人化する能力を無意識のうちに発現させ、その後ウォールマリアの壁の穴を塞ぎ、人類の窮地を救います。

エレンたちは調査兵団に入団し、調査兵団団長のエルヴィンと調査兵団のエース・リヴァイ兵長の管理下で活動をしていく中、エレン同様、巨人化できる人間が兵団の中に紛れていることが発覚します。

この新たな発見をきっかけに、物語は「人類対巨人」から「人類対人類」という構図へシフトしていきます。

※これ以降は原作完結までのネタバレを含みます。

ジークと安楽死計画「生まれてこなければ苦しまなくてよかったんだ」

進撃の巨人 反出生主義

「人類対巨人」から「人類対人類」の戦いへと物語が変遷していく中、エレンの兄・ジークが登場します。
実はエレンを含め巨人化能力のある人種は「エルディア人」と呼ばれ、大昔に巨人を使って世界を蹂躙した大罪を償うべく、現在はあらゆる権利を剥奪され、マーレ人などのエルディア人以外の人間から迫害されていました。

ジークはエルディア人の復権を目指す過激な思想を持つ父母のもとで生まれ育ち、恩人との出会いなどさまざまな出来事を経て次第に「エルディア人は生まれてこない方がいい」という思想を強く抱くようになります。

そもそも生まれてこなければ、こんなに苦しむことはなかったのだと。

ジークは『安楽死計画』をくわだて、「自滅的な民族浄化」を目指しました。
安楽死計画とは、全てのエルディア人から生殖機能を奪うことで、子供を作れない体にする計画です。
(ジークとエレンが力を合わせて始祖の力を操ればエルディア人の体を作り変えることができる)
エルディア人という人種をゆるやかに安楽死させて絶滅していこうというわけです。

「これから生まれてくる人類(エルディア人)を生まれさせないこと」によって、長く続いてきた歴史的な民族問題を解決しようと。

進撃の巨人 反出生主義

ジークはこれを「救済」だとも言っています。

俺は… 救ってやったんだ
そいつらから生まれてくる子供の命を…
この残酷な世界から…

これから生まれてくる人類を、生まれさせないことでこの残酷な世界から救うのだと。
「この世界に生まれてこない方がいい」という考え方は反出生主義に近いものがあるように感じますね。

このジークの確固たる思想は、ジークの生い立ちやこれまでの出会いによって作り上げられてきたものです。

どうしてまた悪魔を産んだ?

これは幼少期のジークが両親と共に街に出た時、両親がマーレ人に吐き捨てられた言葉。
こうした幼い頃からの迫害の記憶も、ジークの思想を形どっていったに違いありません。
エルディア人が生まれないことは、エルディア人以外の人類にとっても良いことなのだと。

余談ですが、エルディア復権という偏った思想を両親に押し付けられ、復権派としての期待をかけられ、子供らしい幼少期を過ごすことができず、愛された記憶のないまま大人になったジークのことを「毒親育ちのアダルトチルドレン」と捉えている人も多いそう。

反出生主義はこの世界への「諦め」であり「救済」

進撃の巨人 反出生主義

確かにエルディア人がゆるやかに絶滅していけば、いずれ人々は巨人に支配された恐怖や虐殺の歴史から解き放たれ、世界に平和が訪れるかもしれません。
しかし、それは恒久の平和なのでしょうか?
エルディア人迫害という一つの民族問題がなくなっただけで、新たな問題が起こるような気もします。
(実際に作中ではエルディア人と関係ない資源や土地を争う戦争も実際に起きていました。)

もちろん「こんなひどい世の中に生まれたくなんてなかった」という人たちもいます。
そういった人たちにとって反出生主義は救済です。
反出生主義はこの世で苦しみながらも懸命に生きている人の救いの場なのです。

また、ジークは人類の目的は「増えること」すなわち生物として繁殖することが本能であり、そこに意味などないといった思考も持っていました。

人類の生きる目的は、増えること。
しかし、この世界は残酷で、苦しみの連鎖はなくならない。
それならば、いっそ生まれてこない方がいいのだと。

しかしこれはアルミンの一言によって覆されます。

生まれてきたからって苦しいことばかりじゃない。
生きていれば「なんでもない一瞬」の大切さ、愛おしさがあるんだと。

このアルミンの考えに触れ、ジークも生きているからこそ感じられる小さな幸せに気づきます。
大切な人とただキャッチボールをするあの幸せな瞬間のためになら、また生まれてもいいかなと。

それでもまた人類は歴史を繰り返す

ジークの望む「安楽死計画エンド」ではなくエレンによる「地鳴らしエンド」となった進撃の巨人。

地鳴らしの後、人種の垣根を乗り越えて人々が協力し、一時の平和が訪れたように見えました。
アルミンの目指す「対話による外交」が成立し、ようやくハッピーエンドが訪れる…
と思いきや、その先また人類が戦争を繰り返しているところまで描かれました。

これが・・・最後の最後まで諫山先生のすごいところ・・・(幼稚な語彙力)

結局のところ、人類は歴史を繰り返すということでしょうか。

仮に安楽死計画が実行されていたとしても、「生まれてこないこと」という極端な解決策でしか問題を乗り越えられなかった人類が、これから起きるであろう別の問題を乗り越えられるとも限りません。

安楽死計画を実行していようとも、地鳴らしで人種を超えた団結を得ようとも、どのみち世界から争いがなくなることはなかったのでしょう。

これは現実世界にも当てはまりますよね。
第一次、第二次世界大戦を経て大きな苦しみを世界が共有し、あらゆる条約で秩序を整え、平和な世界をと世界中が望んだにも関わらず、また戦争は起きています。
もっと遡れば、人類は石器時代かそれより前から争いを繰り返していますしね。

それでもなお、解決の手段は「暴力」ではなく、作品中でアルミンがたびたび語る「対話」にあると信じたくなる。
同じような悲しい歴史を繰り返しながらも、少しずつ平和への道を切り拓いている。
そんな希望が、残酷な世界を描き抜いた進撃の巨人の中にも感じられました。

『進撃の巨人』から反出生主義を考える

環境問題、食糧問題、戦争、差別、児童虐待。
この世界には残酷かつ深刻な問題が取り巻いています。

悲しいニュースが飛び交う現代では、Z世代を中心に子どもを欲しいと思わない人が増えているそう。
反出生主義とまでは言わずとも、少なくとも自分は子どもをこの世に生み落とすべきではないと。

少子化対策や子育て支援についてさまざま議論されていますが、現代を生きる若者が「未来への希望」を持てていないことの根が深いように感じます。
自分が今を生きることで精一杯だという人も多くいます。

最近では「最終世代運動」なんて言葉もあるようです。
こんなに先の見えない世の中で子どもを産むことなんてできない。自分たちの代で終わらせると。

さまざまな問題が取り巻く令和を生きるみなさんは「反出生主義」についてどのように考えますか?
進撃の巨人をきっかけに、現実の世界が抱える問題や取り巻く思想に、今一度目を向けてみたいですね。

まだ読んだことがない方も『進撃の巨人』をこの機会にぜひ読んでみてくださいね!!

◆『進撃の巨人』全巻セット

[新品/あす楽]進撃の巨人 (1-34巻 全巻) +オリジナル収納BOX付セット 全巻セット

反出生主義についてはこちらの記事もぜひご一読ください。

●作者の諫山先生は「ジークが反出生主義者である」ことや「(諫山先生自身が)反出生主義思想を持っている」といったことは公言していませんので、これらはあくまでファンの中で言われている一つの見解です。

●ネット上では「ジークの考え方は反出生主義というよりも優生思想や選民思想に近いのでは」という声もみられましたので、またの機会に「優生思想」「選民思想」についてもお話ししたいと思います!

copy right : 進撃の巨人

カテゴリー

Google検索ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5

アクセス急上昇中の記事

注目トピック

あなたにおすすめ

PAGE TOP