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「反出生主義」ってなに?現代人はなぜ反出生主義に共感するのか

こんにちは!DINKS MAGAZINE編集長です。

みなさんは「反出生主義」という言葉をご存知でしょうか?

反出生主義とは「人間は生まれてこない方がいい」とする考え方で、出産行為は生まれてくる子供への暴力、親のエゴであるとしてこの世に生まれることおよび子を持つことを否定的に価値づける倫理的見解です。

「誰も産まないことが良い」という価値観を普及させることで人類を段階的に絶滅させていき、それによって生きるという苦痛を味わうことも無くなり、全てが解決するという考え方なんですね。

極端とも取れるこの考え方ですが、近年SNSを中心に広がりを見せているんです。

反出生主義を唱えた代表的な人

反出生主義を唱えたのはどんな人たちでしょうか。

ショーペンハウアー

反出生主義とは

19世紀に活躍したドイツの哲学者アルトゥル・ショーペンハウアーは「人生は苦しみの方が多い」とし、最も合理的なのは「子供を地球に生みださないこと」と主張しました。

世界は生きる意志によって支配されており、盲目的で不合理な力、常に現れる本能的欲望など、その性質ゆえに決して満たされないことが苦しみの原因であると説いています。

世界には喜びより苦しみの方が多く、数千人の幸福と喜びは、一人の人間の苦痛を補うことまではできないとし、全体的に考えると「生命は生まれない方がより良い」と主張しています。

ザプフェ

反出生主義とは

ノルウェーの哲学者ピーター・ウェッセル・ザプフェは、人間は生物学的なパラドックスであり、意識が過剰に発達してしまったために他の動物のように正常に機能しなくなっているとしています。

私たち人間は「もっと生きたい」と望み、進化してきましたが、人間は死が運命づけられていることを認識できる唯一の種であり、正義と世界の出来事に意味があることを期待する生き物です。
これが「意識を持った個体の人生が悲劇であることを保証している」と説いています。

また、ショーペンハウアー同様、私たち人間は「満足させることができない欲望」と「精神的な要求」を持っているため、この自己欺瞞をやめ、「出産をやめることによって存続を終わらせる必要がある」と主張しました。

シオラン

反出生主義とは

20世紀に活躍したルーマニアの思想家エミール・シオランも反出生主義者として有名です。
著書『カイエ』に以下のような記述があります。

私が己を自負する唯一の理由は、20歳を迎える非常に早い段階で「人は子供を産むべきではない」と悟ったからだ。結婚、家族、そしてすべての社会慣習に対する私の嫌悪感は、これによる。自分の欠点を誰かに継承させること、自分が経験した同じ経験を誰かにさせること、自分よりも過酷かもしれない十字架の道に誰かを強制することは、犯罪だ。不幸と苦痛を継承する子に人生を与えることには同意できない。すべての親は無責任であり、殺人犯である。生殖は獣にのみ在るべきだ。

(カイエ・・・フランス語で「メモ帳」「ノート」といった意味を持つ)

ベネター

反出生主義とは

南アフリカ共和国の哲学者デイヴィッド・ベネターもまた「生まれてくることはその本人にとって常に災難」であり、「子供を生むことは反道徳的な行為で、子供は生むべきではない」と主張した反出生主義者です。

「生まないことは多くの人にとってはある種の我慢が必要なことですが、生まれてくる人間のことを少しでも真剣に考えるのならば子供は生まずに我慢すべきだ」と主張しています。

地球上の理想の人口はゼロすなわち人類は絶滅した方がよいと主張していて、少しずつ段階的に人口を減らしていき、ゆるやかに絶滅していくのが良いだろうとも述べています。

反出生主義が描かれている作品

反出生主義が描かれている作品も数多く存在します。

芥川龍之介『河童』

反出生主義とは

芥川龍之介の『河童』は、河童の世界に迷い込んだ男を描いた作品。

河童の世界では出産前に母親の胎内にいる子供に「産まれたいかどうか」を尋ね「産まれたくない」と回答があるとその場で胎内に液体を注いで消滅させてしまいます。
作品中では人間の行う産児制限について「両親の都合ばかり考えている」「手前勝手」と河童に笑われているとも描かれています。

著者の芥川自身が晩年に抱いていた厭世的な思想が現れた作品としても有名で、「生まれるか生まれないか」を子供が自分自身で選べないことに対しての皮肉が込められています。
生まれてくるかどうかを子供が選べる場合を想定した興味深いストーリーですね。

太宰治『斜陽』

反出生主義とは

中編小説『斜陽』は没落していく人々を描いた太宰治の代表作。
「生まれてこなければよかった」という嘆きは文学の中でしばしば表現されてきましたが、本作でも主人公がそう語る場面があります。

「ああ、人間の生活って、あんまりみじめ。生れて来ないほうがよかったとみんなが考えているこの現実」

「毎日、朝から晩まで、はかなく何かを待っている。みじめすぎます。生れて来てよかったと、ああ、いのちを、人間を、世の中を、よろこんでみとうございます」

この言葉にはなんとも言えない悲壮感が表れていますね。

また、太宰治の『二十世紀旗手』という短編集の副題が「生れて、すみません」であることも有名です。
太宰治が反出生主義者だったかどうかはわかりませんが、パビナール中毒に悩まされ精神的に不安定な状況であったとされる時期に書かれたと言われており、自身が生きることに疲れ、生まれてきたことを後悔するような時があったことからこういった言葉を選んだのかもしれませんね。

その他にも人気漫画『進撃の巨人』や映画『日本で一番悪い奴ら』『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』などにも反出生主義に似た考えが登場すると言われています。

反出生主義を肯定する人は現代にも多い

ここまで見てみると正直「反出生主義ってやばくない?」「主張が極論すぎる気がするんだけど…」と感じてしまいますよね…。
筆者も暫定DINKsという立ち位置にいながらも「反出生主義」への理解は乏しい人間です。

しかし実は反出生主義は過去の遺物や一部の人の主義ではなく、現代にも色濃く広がっている倫理観なんです。

新型コロナウイルスの蔓延やロシアのウクライナ侵攻、安倍元首相の銃撃など、近年立て続けに起きている悲劇も相まって「こんな悲惨な世の中に子どもを産み落とすなんて可哀想」と考える人が増えたのも一因かもしれません。

なぜ現代人は「反出生主義」に共感するのか

反出生主義とは

冒頭でも述べた通り、近年「反出生主義」に関する投稿がネットやSNSを中心に増えています。
現代人がなぜ反出生主義に共感するのか。
そこには現代の社会問題が影を落としている気がします。

実際に反出生主義に共感する理由として「社会状況の悪化」が挙げられることは多いです。
特に欧米では環境問題を考える中で反出生主義が持ち出されることがしばしばあり、日本だけでなく海外でも反出生主義の考え方が注目を集めています。

繰り返す戦争、終わらない貧困、是正されない格差社会、環境問題や食糧問題など…先の見えない社会問題が蔓延するこの世界に新たな命を生み出したくないといった理由から反出生主義の考えを持ち始める人は数多くいます。

不思議なのは「幼少期に辛い家庭環境の中で育った」「経済的に貧困で生きることが苦しい」など「これまでの人生が不幸だった」と生に不満を感じていた人ばかりが反出生主義者になるわけではないということ。

恵まれた環境で育ち、人生に不満がなくても「生きる意味」や「自分は生まれてくるべきだったのか」という哲学的視点に目を向ける人は多くいます。

「いつか必ず死ぬのに人はなぜ生まれてくるのか」「人を傷つけ、人に傷つけられてしまうなら生まれてこない方が良かったのではないか」という問いは古代からずっと続いてきたものですが、現代の日本でその考え方を支持する風潮が顕著にみられるようになったのは大変興味深いことですね。

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